吐き気がすること

香港のとある所で、深夜遅くまでやっている麺の店があった。
夜中、小腹が空いた時、よくそこのエビワンタン麺を食ったものだった。
とにかく、それを作っているおやじさんの腕は相当なもので、その麺のゆで具合からそのお湯の切り方まで長い経験と計算に基いて、一杯、一杯、真剣に作る。
安い上に絶品ときている。当然、そのおやじさんのファンは多く、酒好きのおやじさんのために、お客がよくビールなどのお酒の差し入れを持ってきていたりしていた。深夜、その酒を飲みながら作ったりしているのだが、たまについ飲む方に力が入り過ぎて、仕事を放棄する時もあった。
その時は、彼の奥さんかその息子さんが代わりに作るのだが、やっぱりそのおやじさんに比べると全くダメだ。材料等、やり方も同じなのに味、食感が明らかに違うのだ。

そういうやり方で年中休みなしで働いていたおやじさんだったが、かなり体を酷使していたかと思う。
それからその街を離れることになって、行けなくなったのだが、数年後、ひさしぶりその店に再び訪れた時は、店におやじさんはいなかった。休みではなく、亡くなられたのだった。

そのおやじさんの意志をつぎ、息子さんが店を切り盛りしていた。味はおやじさんにはまだまだかなわないが、確かに上達していた。心の中で「がんばれ」と応援した。
しかし最近、再び訪れた時、その店自身、もうなかった。
聞いたことがない、わけのわからない不動産屋に変わっていた。
古いビルが立ち並ぶこのあたり一体を地上げしている所なのだろう。 →「吐き気がすること」の続きを読む