もう「三把刀」もクソもないけれども

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もう20年近く前になるが、シンガポールに初めて来た時にびっくりした。

華僑がよく就く職業で、「三把刀」というのがある。いわゆる、料理人、理髪師、仕立屋の三つの職業で、このはさみやナイフなどを使う職業は、どこの国でも需要があり食いっぱぐれがないということで、これに関連した中華系の人達は、腕が良い人達が多かった。

しかし、シンガポールで、ズボンの補正のためにある店にそのズボンを出したら、めちゃくちゃにされた。いい加減というものではない。まるで、小学生が家庭科の授業でぬったような荒い縫い方。それだけではない、まったく違う色の糸で、わざと目立つようにしたのではないかと疑うような縫い方をしてくれたのだ。

この時は、怒りを通り越して、呆れてしまった。また現地の理髪店に行ったら、誰の趣味かわからないようなヘアースタイルにされてしまう。

しかし当たり前だった。その時はシンガポールは先進国への成長に向かってまっしぐらの時であり、いわゆる「エリート主義」を貫いていて、「価値観」や「職業観」などがもう以前とは違って、そういう職業は、いわゆる「おちごぼれ」が就く職業だったからだ。

しかし、その成長が加速して、落ち着く頃には、そういう職業も「儲かる」と見直されて、昔より逆にマシになった。

香港は、以前からよく書いているが、本当に「プロ」と呼べる人がいなくなった。そういう職業より、儲かるものが現実に、たくさんある。また中国大陸のおかげで潤った。不動産価格も上昇。
へたにレストランなど経営しようものなら、高い不動産の固定費で身動きがきかなくなる。特に大手は、日本のようにセントラルキッチンでコスト削減。

その他も同じだ。香港なら「金儲け」の観点から言えば、こういう職業をわざわざやるメリットがあまりない。

この前も、またやられてしまった。靴底がはずれかけていたので、修理に出した。自分でもできる程度なのだが、かなり気にっていたやつだったので、大事をとって、出したのだが・・・。自分で修理をすればよかった。はみ出した接着剤。荒い仕事。靴底のクッションもきかなくなる。当たり前だ。ぞうりのようにべったりご丁寧にボンドで貼り付けてくれたからだ。またしても・・・だった。

昔から香港でよく行く理髪店があった。言葉もろくに通じない。でも行く。何故なら、それでも腕が確かだからだ。早いのに、確実に切っていく。しかも安い。香港大手で日本人が作った、50HKDの理髪店チェーンと同じくらいの値段なのに、髪まで洗ってくれる。しかも、その日本人が作った理髪店チェーンの最近の腕のひどさと言ったら・・その話しは止めておこう。思い出しただけでも、不愉快になる。その理由は、前述したとおり、こういう香港だからしょうがないと言っておこう。

しかしある時から、その店はなくなった。そこに1枚の張り紙。どうやら、借金が払えなくなって店を取られたらしい。
そこの主人、昔からひとつ悪いクセがあった。根っからのギャンブル好きだった。日曜などで、お昼の競馬の時間になると、必ず店にあるテレビは競馬中継に。髪も切らないギャンブル仲間がよく店に集まってきた。

そこに不動産バブルの登場。どんな場所でもそこの場所を担保に気軽にお金が借りられる。特に銀行が融資攻勢をかけていた。不動産が上がる。当然、お金がふってきたような錯覚におちいる。商売も実はそこまでよくない。負けても取り返そうとするギャンブル資金のためにも、お金を借りる。しかし、不動産が上がろうと借金は借金である。借金がかさみ、そしてついに昔からやっていた店を取られてしまったわけだ。

それから、いろいろ理髪店を変えたが、値段だけではなく、どうもやはりしっくりこない。あの親父は今どこに。彼ほどの腕なら、どこかで再起をかけ、やり直しをするはずだ。実際、昔から彼のファンも結構いたことだし。

あの場所より、借り賃が安いところで、元、どこかの理髪店で店を畳んだところで・・・・さまざまな仮説をたて、たぶん再起をはかるだろう場所の検討をつけた。そして最近、数年ぶりに、ついに、その彼の再起の店を見つけた。予想通り。我ながら素晴らしい推理だ。だいたい予想通りだった。

最初は別人ではないかと疑った。昔より、ちょっと若くなったような気がした。
そして、切ってもらった。やはり彼だった。彼も覚えていた。よく言葉もしゃべれない日本人がうちに切りに来るなと気になっていたそうだ。それは彼の腕が素晴らしいからだと言った。そして、あなたの店をわざわざ探したんだぞと言った。
彼は感動していた。気のせいか少し涙ぐんでいた。

そういえば、切ってもらっている最中、ある客が、「マーク6」の話しをしていた。そしてその主人に、「マーク6」をやらないのと聞いていた。そしたら、彼はこう返事した。「もうギャンブルはこりごりだよ。マーク6すら、もうやめたよ」と。

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